先日、知人のAさんに誘われてボクシングを見に行きました。
ボクシングにそれほど思い入れもなく、格闘技自体たまにテレビで見る程度の私だったのですが、今回のお誘いはちょっと断ることはできませんでした。
Aさんの弟のプロデビュー戦だったのです。
応援団は、Aさんと、彼女の母親とその知人、彼女の友人1人と本人の友人2人、そこに私を加えた合計7人です。
新宿駅で待ち合わせし、歩くこと5分。
試合会場の「FACE」に着きました。
ボクシングの試合、特にデビュー戦などは、「後楽園ホール」が有名だと思うのですが、実際にはいろいろな場所で開催されているらしいです。
ビルの前には数百人ほどの列ができていて、開場を待っていました。
実を言うと私は、会場はガラガラで、ほんの数人しかお客さんがいないのかと思っていましたが、会場は満員でびっくりしました。
お目当ての試合は、3試合目。
とりあえずは、普通にボクシング初観戦です。
確かに生で見るのとテレビで見るのは(当たり前ですが)全く違いました。
解説がない代わりに、顔やボディーを殴るニブイ音が聞こえてきます。
試合が終わると、まずAさんに声をかけました。
「弟、勝ってくれるといいね。」
すると、彼女はじっとリングの方だけ見ながら
「勝つところしか想像できないし、それ以外考えたくない。」
と、答えました。
次に、彼女のお母さんに声をかけました。
「息子さん、少なくともケガだけはしないといいですね。」
「まさか自分の息子がこれからあそこに立つなんて・・・。さっきまでの2試合も、緊張してあまり見れなくて・・・。なんだかあっという間。あ~まだ信じられない!」
と、落ち着かない様子。
私はというと、この親子との帰り道での会話を想像し、
「弟よ!なんとしてでも勝ってくれ!」
と祈っていました。
そして、その時。
対戦相手が入場するや否や、会場の一角から派手な応援の声が聞こえます。
「頑張れ!」と叫ぶ人たち、名前を連呼する人たち、総勢40~50人の大応援団です。
この日に組まれた十数試合は、プロデビュー戦や2戦目のボクサー同士の戦いです。
イベント名も「ルーキーズカップ」。
ですから、基本的に家族、親戚、友人などが応援に来ているわけです(すでに固定ファンがついている選手もいるのかもしれませんが)。
ここで、私たち7人は初めて声を張り上げて応援することになりました。
1試合目、2試合目を振り返ってみても、たった7人の応援団というのはかなり少ない方でした。
実際、弟の名前を呼ぶくらいしかできなかった私たちの声援はなんとも頼りなく、相手の大応援団による声援にかき消されます。
(「ジャブ!」「足を使って!」「自分の距離を保って!」など専門的な声援も多かった。)
「応援の声?全く聞こえなかった。どこに座ってたの?」
本人ものちに、こうコメントするほどでした。
試合は、対戦相手が優勢で3Rまで進みます。
相手のフットワークが軽やかで、なかなかパンチを当てられないのです。
ボクシングは、KO(ノックアウト)がなかったときは、ポイント(相手にどれだけ有効なパンチを当てたか)によって勝敗が決します。
KO負けにつながるような決定的なパンチは打たれてないものの、ポイントでは確実に負けていて、弟が勝つには最終ラウンドで相手をKOで倒すしかありませんでした。
そして運命の最終ラウンド・・・。
なんと!
狙い済ましたカウンターパンチ一発で大逆転のKO勝利!
それまで会場内を満たしていた大応援団の声援がピタッと止み、一瞬の静寂が。
そして、Aさんと母親、友人、私の「ウォーッ!!」「キャーッ!!」という獣のような声が響き渡りました。
勝者のアナウンスがあり、次の試合の準備が始まってからも、私たちは興奮して叫んでいました。
試合内容と同じように、まるで応援でも最後に逆転KO勝ちでも収めたかのように、静まり返った大応援団(がいる方向)に向かって必要以上に弟の名前を連呼していました。
落ち着いてきたのは、次の試合の選手入場が始まって、会場の別の一角が盛り上がり始めた頃でした。
なるほど、格闘技観戦とはこうゆうものか、と思いました。
ただ、もう二度と知り合いの試合には行くつもりはありません(Aさんゴメンなさい!)。
私たちは、せっかくだからあと数試合見てから帰ろう、ということなり、そのまま座って興奮をさましていました。
そして私は、入り口で手に取った、その日のプログラムを改めてながめてみました。
すると、先ほどの対戦相手の出身地が書かれていたことに気づきました。
九州でした。
つまり、彼の大応援団は(全員ではないとしても)九州から応援しにきていた、という可能性が高いのです。
息子のプロデビュー戦です。
ご両親も見にいらしていたかもしれません。
親戚や地元の友人も来ていたでしょう。
はるばる東京にやってきて、息子のKO負けシーンをみることになるとは・・・。
もし、Aさんの弟が同じような負け方をしていたら・・・
もし、自分の身内が同じような負け方をしていたら・・・
甘いのかもしれませんが、このように考え始めると、先ほどの勝利をあまり喜べなくなってしまいました。
よくよく見てみると、その他の試合の出場選手たちも「北海道」や「四国」、「沖縄」出身までいました。
会場のそれぞれの場所に陣取っているそれぞれの選手の応援団も、同じような事情をかかえているわけです。
それぞれの選手がどのような気持ちでプロデビュー戦を迎えたか、そしてその頑張りを知っている家族・友人がどのような気持ちでプロデビュー戦を応援しているか、今日は東京のどこに宿泊するのだろうか、どんな言葉で本人を慰めるのだろうか、本人は両親や友人に対してどんな言葉をかけるのだろうか、などなど 試合を純粋に楽しむことのできない要素が満載だということに気づいたのです。
帰りに、我々小応援団は近くの居酒屋で祝勝会を開きました(本人は不参加)。
私は、Aさんと母親とに心からお祝いの言葉をかけました。
息子が、弟が、どれくらい真剣にボクシングに打ち込み、どれだけツライ練習を耐え抜いてきたか、それを間近で見てきた2人には、(少なくともその夜は)KO負けした対戦相手やその応援団のことを考える余裕はないでしょう(考えるべきかどうかすらも私にはわかりません)。
少なくとも、私にはそんな世界に踏み込む覚悟はないです。
しばらく、テレビ観戦でいきたいと思います。