世紀末も過ぎて久しい昨今ですが、先日府中市美術館で行われている『世紀末、美の形』展に行ってきました。
ここで言う、世紀末はさかのぼること110年1800年代の終わり、更には世紀をまたいで19世紀の初頭にかけて活躍したアーティストの展覧会となっておりました。アール・ヌーヴォー、アールデコの巨匠による、絵画(版画)とガラス工芸を「時代のかたち」とリンクさせ紹介する見応えある内容となっておりました。
■展示内容
「世紀末」という言葉の響きには、どこか退廃的(たいはいてき)な香りが漂っています。しかし、19世紀末のヨーロッパはまた、活気にあふれた時代でもありました。終末思想にも煽(あお)られた言いしれない不安と、楽天的な華やかさとが混ざりあい、独特の雰囲気(ふんいき)に満ちていたのです。
そんな時代、美術の世界では、新しいものを切り開こうとする動きが、次々と生まれました。「目に映るままに描く」という西洋絵画の常識に、真っ向から挑戦 したルドンやゴーギャン。あるいは、「工芸」という枠をのりこえて、絵画や彫刻にも比肩するガラス器を生みだそうとしたガレ。ポスターという新しい広告に 鑑賞する楽しみまでも与えようとしたミュシャ。
この時代の絵画や工芸を、あらためて見渡してみると、作品の外見がとてもよく似ているという素朴な事実に気づかされます。たとえば、ゴーギャンやミュシャ の大胆にデフォルメされた有機的な色面や曲線、あるいは、ルドンやガレが光や闇を単なる自然現象としてではなく、神秘的なものとしてとらえようとした表 現。それらは、同時代でなければ生まれえない「何か」を、共有しているのです。
立場も、表現手法も、背負った伝統も異なる作家たちが、未知なるものを目指した結果として、造形性で結ばれたひとつの世界が生みだされたということは、たいへん興味深いことです。それは、作家の理念や価値観をもこえた「時代のかたち」と言うべきものではないでしょうか。
美術館ホームページより
大好きな、ミュシャとラリックが同時に見れるとあって、公開前から心待ちにしていた展示会でしたので、さぞかし混雑するのだろうと思いきや、ガラガラの展示会場。
私を含めても全館内で5人くらいしかいなかった時間帯ではなかったでしょうか。初日が土曜日で、連休初日と重なった為なのか、おかげさまでじっくり堪能することができました。
入ってすぐ、ミュシャの『百合』。連作の4つの花より、2点が正面に飾られておりました。
アルフォンス・ミュシャ「百合」
歩いてすぐのところにラリックの『羽のあるニンフ』が鎮座していました。これは、パンフレットでも紹介されている、今回の目玉展示でもあるようです。
ただ実際見ると、こんなに小さいんだと感心するコンパクトさ。デザインもさることながら、5cmも無いような小さなブローチに精緻な飾りやガラス細工がちりばめられていて、これは人のなせる技なのかとアーティストの技術に心奪われます。
ルネ・ラリック ブローチ 『羽のあるニンフ』
歩いて数歩でこの2つでしたので、もう結構満足感があったのですが、その後ろのスペースにも【自然とかたち】ということで、花に囲まれた装飾のミュシャの『ラ・トスカ』や、水の怪物オンディーヌのモチーフのラリックによるガラス皿など息をのむ展示が続きます。特にミュシャ関連はサラ・ベルナールのアメリカツアーポスター『ジスモンダ』をはじめ多くの作品を鑑賞することができます。
アルフォンス・ミュシャ 『ラ・トスカ』
展示は4部構成で、
・自然とかたち
・文字を刻む
・異形の美
・光と影
ということで、次のブロック『文字を刻む』では有名なガレのカゲロウモチーフの器やゴーギャンの版画など美しい絵画とガラス工芸に目を引かれました。
ポール・ゴーギャン「ナヴェ・ナヴェ・フェヌア(かぐわしき大地)」
エミール・ガレ「好かれようと気にかける」
その後ろの2つのブロックでは『異形の美・光と影』をテーマにルドンの絵画やガレの枯れた蘭をモチーフにした器、ランプなどは美しくもあり、妖艶で恐ろしささえ感じるような生き物の形を写し込んだ作品が並びます。
特にガレのガラス細工は、ガラスってここまで表情のある素材だったのかと驚きを持ってご覧頂けると思います。日本では長野にある北澤美術館が有名ですが(今回の展示品もここから多く来ています)、その他でも日本でもミュシャなどは多くの美術館で見ることができますので、ファンも多い作家さん達です。
そんな人気作家の集まった今回の展示会は11月23日までとかなり長い期間開催されております。併設のカフェや、隣接する緑豊かな府中公園などもリラックスできる優雅な空間ですので、ぜひともお時間のある方は足を運んでみてはいかがでしょうか?平日はゆっくり見ることができるので、特におすすめです。
ホームページはこちらから
http://www.city.fuchu.tokyo.jp/art/index.html