昔、ブレードランナーの原作で『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』というSF小説を読んだことがありました。アンドロイドを破棄する賞金稼ぎの主人公が、人間より人間らしいアンドロイドに会ってゆくにつれ、そもそも人間とアンドロイドの違いってなんなのだろうとと苦悩してゆくお話でした。
それと同じように人間とパッと見、見分けがつかないようなアンドロイドが先日新宿高島屋にお目見えしておりました。その名もジェミノイドF。
バレンタインデーの企画展なのですが、ラッピングに囲まれた箱の中で彼氏に待ちぼうけをくらう彼女という設定のよう。まさに箱入り娘といった感じで佇んでいました。
片手には携帯を持ち、そばには角田光代さんの『だれかのいとしいひと』の文庫本が置かれてます。題名のチョイスなのでしょうか、失恋話の多いこの短編を置くとこは何か意味深です(笑)バレンタインデー前ということもあり、幸せそうなカップルが多い中、切なげにちょこんと座る彼女に自然と皆の視線が集まります。
日本はアンドロイドの研究が盛んな国で、今やホンダのASIMOやSONYのAIBOなど日本はロボット先進国といわれています。日本ほどロボットの認知度が高い国も珍しく工業用を始め、様々な分野でロボットは人の役に立っています。古くは鉄腕アトムを始め、ガンダム、ドラえもんなどアニメーションで子供の頃から培われたロボットに対する親近感がこの分野に対する期待感を高めているのかもしれません。
「人間に似た」という意味を語源に持つアンドロイドは、その言葉通り、人形のロボットの事を指します。
今回高島屋さんに展示されていたジェミノイドFはロボット研究の第一人者である大阪大学の石黒浩氏が開発したアンドロイドで、「実在人間型ロボット」あるいは「ドッペルゲンガー(Doppelganger)型」と呼ばれています。Geminoidとは、ふたごを意味する「gemin」と、「~のような」を意味する「-oid」からの造語でこの女性にもモデルさんが居ます。
今までは大きな万博などでは受付嬢としてアンドロイドが活躍することはありますが、まだまだお人形といった感じでとても人とは似つかないレベルでした。しかし、ジェミノイドFに関しては質感や表情の変化などがとても自然で、今回のように若干照明を落としたくらい環境でしたら、ほとんど人と見分けがつかない印象でした。
展示意図としてはショーウインドウの未来を考えるという事で、単なるマネキンとしてではなくアンドロイドがショーウインドウで洋服や商品のプレゼンテーションに加わったらどうなるのだろうという試みだったようです。喋ったり、立ち上がったりといった大きな動きはありませんでしたが、時おり焚かれるフラッシュの閃光に目をしかめたり、あくびをして首を左右に振ったりとまるで人がそこに居るような振る舞いで、多くの観光客の目を惹いておりました。
特に外国人の反応が面白くて、連れの日本人に『日本ではこれが普通なのかい?』みたいな事を聞いていました。私は心の中で『いやいや、こんなの滅多に無いですよ(笑)』と笑いをこらえるのに必死でした。携帯電話を握っているのですが、そちらからツイッターへの書き込みも行われているようです。(書いているのは“中の人”なんでしょうけど…)
■ジェミノイドFのツイッター
http://twitter.com/#!/geminoidf
今はまだマネキン的な使われかたしかしておりませんが、今後自分で考えて動き、人のように振る舞うロボットが必ずや出てくると思います。その先駆けに触れることができてとても良い機会だったと思います。 いずれは人がいないような場所においては今の携帯電話のように無機質な機械に話しかけるのではなく、人形のアンドロイドに話しかけることで、人とコミュニケーションを取っているかのように遠隔地の人と会話できるような新しいインターフェースとして普及するかもしれないななんて思ったりもしました。
ご興味のある方は大阪大学の知能ロボット研究室のサイトも覗かれてみるのもいかがでしょうか?石黒博士のジェミノイドもご覧頂けます。
■大阪大学知能ロボット研究室(石黒研究室)
http://top.irl.sys.es.osaka-u.ac.jp/