梅雨も開けて、夏本番。本格的に暑い日々がやってきました!
先日17日には、全国75か所で猛暑日を記録。群馬県の館林市では、最高気温がなんと40度近くまで上がりましたね。昨年もとにかく暑い夏でしたが、今年も続いて暑い夏になりそうですね。
そんな猛暑日、熱帯夜が続くとどうしてもクーラーのかかった室内にこもりがち。室内でテレビ漬けというのも悪くないですが、そんなあなたにお勧めなのが、読書。自分のペースで長い時間お楽しみ頂けますし、室内にいながら別世界を味わえる極上エンターテインメントの世界です。この夏は熱波を吹き飛ばす、ミステリー、サスペンスで背筋も凍る夏を過ごしてみませんか?
■人気編集者が綴る、シリアルキラーの物語
漫画界の巨匠が遺した未発表原稿。発見された50枚の原稿には、若い女性を誘拐・監禁し、苦悶する姿をデッサンして殺害する“漫画家”なる人物が描かれ、さらには、作中の被害者の顔は、35年前の連続女性失踪事件で消えた女性に酷似していた。
果たしてこれは巨匠本人が描いたものなのか?別人だとすれば誰が、何のために?作者は現実に女性を次々に誘拐し殺した犯人なのか―原稿に遺された痕跡が新たな猟奇事件を招き、驚くべき犯人像が浮かび上がるが…。
二転三転から、ありえない結末へ。伝説的名作『MASTERキートン』原作者の一人。漫画界のカリスマだからこそ書けた驚愕のミステリー長編。(「BOOK」データベースより)
漫画好きなら知らない人はいないぐらいの伝説的編集者、長崎 尚志氏が自ら漫画編集のお話を書いているのだから面白くないわけが無い!漫画に詳しくない人も『MONSTER』や『マスターキートン』などなど人気漫画の名前は聞いた事があるのではないでしょうか?
物語は亡くなった大御所の漫画家のスタジオから未発表原稿が見つかる所からスタートします。原稿は確かに大御所の筆跡そのものなのですが、ストーリーは残虐卑劣で快楽殺人を続けるだけの筋の無い、つまらないものでした。時を同じくして、この大御所作家のベスト盤というべき漫画全集が発売予定になっていた為に、スキャンダルを気にした御所の婦人がこの原稿の真贋をフリーの編集者『醍醐真司』に依頼するのですが…
次々に見つかる新事実、そして事実が見つかるたびに浮かび上がる疑問。そしてついに35年のときを経て、新たな事件が再発するのです!
息をつかせぬ展開、時間軸を交差させて進む構成、どれをとっても漫画的であり、読者を飽きさせない作りになっております。原稿に残された染みや技法などわずかなヒントを元に、殺人鬼に一歩一歩近づくその様は、ゾクゾクする事請け合いです。
特に編集という仕事についての記述には、舌を卷きました。同じストーリーでも編集の手を通過するとこうも面白い話に書き変わるのか!と驚く事でしょう。ストーリーづくりという意味では、原作者という肩書きのほうが正しいのかもしれません。そんな『漫画家』と『編集者』の関係性もこのお話の肝となる所ですので、是非チェックしてみて下さい。知識と発想を武器に戦う、デブっちょで醜男の醍醐真司がだんだんかっこ良く見えてきますよ。
■女郎が夜伽で聞かせる、怖い怖いお話
日本ホラー小説大賞、山本周五郎賞受賞作。
岡山の遊郭で醜い女郎が客に自分の身の上を語り始める。間引き専業の産婆を母にもち、生まれた時から赤ん坊を殺す手伝いをしていた彼女の人生は、血と汚辱にまみれた地獄道だった…。
著者の岩井志麻子さんはテレビなどでコメンテーターとしてよくお見かけすると思います。歯に衣着せぬトークで口やかましいおばさんなイメージがありますが、実は高校生で作家デビューされた、れっきとした売れっ子作家さん。
ご紹介する『ぼっけえきょうてえ』は岩井志麻子さんが書かれた少し前の大ヒット本ですが、全編、岩井さんの出身地でもある岡山弁で語られています。題名も方言で『凄く、怖い』という意味だそう。
醜女の女郎が岡山弁で紡ぐ、夜伽はそれはそれはおどろおどろしく、いつの間にかひんやり寒気がしてくる事でしょう。飢饉がはやった時代とはいえ、この女郎の遊郭に身を落とすまでの生き様もあまりに壮絶で、目を覆いたくなります。事後、男にひっそりと話す、その秘密とは…
岩井さんのテレビでのあの姿を見てしまうと、まさかこんなお話が彼女から生み出されてくるのか!と思うほどのギャップ。そのタッチは精緻で、背筋にじっとりと汗が広がります。ひたひたと迫り来る恐怖は、夏の夜にぴったりのホラー作品だと思います。文庫もでていますので、お気軽に手にしてみてはいかがでしょうか?
■ベストセラー作家の描く、不倫男の顛末
運命的な出会いでもなく、バッティングセンターで出会った渡部と秋葉。2人は出会いを重ねて深い仲になっていくが、渡部は秋葉が高校生の頃に起きた、ある殺人事件の関係者だと知る。犯人は未だ捕まっておらず、秋葉がその事件の容疑者扱いとされていることも知る。
事件は既に15年が経過しており、3月31日が終われば時効を迎える。自分が築き上げてきた家庭が壊れることを恐れながらも秋葉に惹かれる渡部は、その事件と関わりを持つことになる。
猟奇的な殺人事件や、ホラーときたので少しライトなサスペンス物を一つ。新作を出せば映画化、ドラマ化と引っ張りだこで、今日本で一番売れている作家と言っても過言ではない東野圭吾さんのサスペンス物です。
不倫なんてバカがする物だと思っていた…と一人回想する主人公の渡部。会社でも目立たない派遣社員の秋葉とは偶然に夜のバッティングセンター出会い、ミステリアスな一面を持つ秋葉に渡部は次第に心を惹かれて行ってしまった。
一線を越えてしまった渡部が、彼女を深く知るうちに大きな秘密が彼女にはある事に気がつく。気が気で無い渡部は自力で身辺調査を始めるが…
コミカルな部分とシリアスな部分をうまくミックスさせ、小気味好いテンポで進んでゆく人間ドラマ。主人公の揺れ動く気持ちの描写がすばらしいです。『不倫』という非日常を映す時、彼のしどろもどろで発する優しい嘘が、実は家族を壊してゆく姿も同時に描いていて、ラストを盛り上げます。止められない感情と、タイムリミットのある嘘。それぞれが複雑に交差して、たどり着くゴールは如何に。
主人公の嘘に協力してくれる同僚の新谷くんのキャラクターがとてもコミカル。笑えて、ゾッとして、そして涙を誘う感情のジェットコースターサスペンス。希代の人気作家が生み出す物語は、短い夜をさらに短く感じさせてくれるでしょう。こちらも文庫で購入できますので、是非!
以上3作品、新旧合わせて夏の夜にぴったりの背筋が涼しく感じる人間ドラマをご紹介させて頂きました。
サスペンス、ホラーとかミステリーは単純にお化けがでて来て、怖い!とか人が殺されてゾッとするとか、そんな単純な物ではもう皆さんなかなか心を動かされることはないと思います。それはテレビや、映画などでさんざん似たような場面を繰り返し見せられているからなのではないでしょうか?
書籍はたまに挿絵があるにせよ、基本的には活字のみのメディアです。活字から想像される場面など、自分の想像力が生み出す恐怖には際限がありません。なので、とびきり怖いホラーというのは活字、いや、そこから生まれる読者の想像なのでは無いかと思います。
大型連休やお盆などを控えたこの時期、まとまった時間もできるかと思います。一度これを機に書籍を手に取って想像の海に漕ぎ出してみてはいかがでしょうか?