いよいよ冬本番といった寒さになって来ておりますが、皆様いかがお過ごしでしょうか?
ちょうど2年前ぐらいに大人のオススメ『マンガ』特集をエントリーしたのですが、またまたオススメが増えて来たのでご紹介したいと思います。折しも今年の邦画ランキングも終盤に来て「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q」が公開4日で100万人を突破し話題となっております。依然として映画は海外勢が強い中、アニメやマンガといった日本のコンテンツ力はさすがですね。
海外のように車社会ではなく、通勤は電車などまとまった時間がある生活スタイルに書籍というメディアがマッチした結果ともいえるのでしょうが、日本のマンガ・アニメのジャンルと幅の広さは世界に類を見ないものとなっています。社会風刺を取り入れた大人向けの物もあれば、モンスターが跋扈する世界を描く子供達が心躍る『勇者モノ』、スポーツ物、女子が愛してやまない少女マンガまで、ありとあらゆる題材で世界が作られています。
そう言った意味でも一つの文化として、普段読まれない方でも一度手にしてみると自分にあった一冊が見つかるかもしれません!それぞれ最新の作品ではないものもありますが、心に響くオススメの一冊をご紹介しましょう。
■突然現れた自分の子供との共同生活『マイガール』
●あらすじ…
高校生の主人公正宗は付き合っている彼女『陽子』に突然留学を決めたと告げられる。突然の告白に戸惑っているうちに彼女は単身アメリカに飛んでしまい音信不通になる。彼女に手ひどく振られたと思いその思い出を引きずりながら、過ごしている正宗。3年が過ぎた頃、陽子が滞在先で就職したと耳にし、彼女への想いを諦める苦心と未練の狭間で一進一退を繰り返していた。陽子の留学から5年後の春、不慮の 事故で亡くなったという知らせが届く。駆けつけた葬儀場で陽子が留学先で密かに産んで育てていた娘の存在を陽子の母から知らされる。社会人になった正宗の元に急に現れる一人の少女。彼女は自分の娘だと告白されるが…
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嵐の相葉くんの主演でドラマ化もされた佐原ミズさんの話題作。ほぼ同時期に連載されてアニメ化、映画化もされた『うさぎドロップ』もそうですが、突然現れる少女との共同生活というシチュエーションは少女に萌えるという点も人気に繋がりますが、それだけでなく家族のあり方についてとても考えさせられます。別々に暮らして来た、いわば他人でもあった『娘』とぎくしゃくしながらも家族にだんだんなっていく姿に心温まります。ぶつかりながらも人と人とが心を繋げ合うというのはこういうことなんだなぁと、毎エピソードごとに涙を誘われます。特に亡き恋人と愛娘との関係性には心動かされる事だと思います。
ドラマと原作は内容が大分違いますので、ドラマで涙した!という方はマンガは本当にオススメです。単行本も5巻までとそれほど長くない原作ですので、是非とも読んでみて下さい。オススメです。
■ゲーム業界の裏側を描く『大東京トイボックス』
●あらすじ…
秋葉原にある弱小ゲーム会社G3の社長『天川太陽』はかつての大ヒット作「ソードクロニクル」 のディレクターだった。大ヒット作を飛ばしたにもかかわらず上層部との確執でゲームの大企業ソリダスワークスから追い出されてしまった主人公は小さなゲーム会社でくすぶっていた。そこへ親会社からキャリアOLの月山が出向されてくる。本社に戻りたい一心で「売れるゲーム」を求める月山と、ただひたすら理想を追求する太陽。両者がぶつかって少しずつ形になってゆくゲームという作品達。ゲームができてくる中で、かつての情熱を取り戻してゆく太陽とそれを邪魔する大企業の影。はたして、G3の運命やいかに!
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ゲームものの主人公といえば今まではゲームをやる側の人間、ゲーマーに焦点を当てた作品が多かったですが、この大東京トイボックス(前作に東京トイボックスもあります)はゲームを作る側の人間にスポットが当たっています。ゲームといえどもビジネスですから、予算があり、納期があります。限られた時間と予算の中でプログラマーや、キャラクターを描くデザイナーなどを手配し、スケジュールを進行してゆくのがディレクターの役目です。
ゲームという虚構を作り上げる理想と、ビジネスを動かすリアリティを同居させた存在でもある主人公たち。会社で働くサラリーマンも同じような経験をしたことがあるのではないでしょうか?働く大人にお勧めの一冊です。今年はなんとマンガ大賞2012の銀賞に選ばれるなど注目された年でもありました。金賞の『銀の匙』は人気マンガ雑誌の少年サンデーの連載で、作家は鋼の錬金術師の荒川弘さんです。それに比べてといっては失礼ですが、大東京トイボックスはバーズコミックスという書店でもほとんど見かけない雑誌ですし、単行本もこの賞を取るまでは大手の書店でもなかなか変えない状態でした。そんな中、受賞されたという事は、中身は推して知るべしといった感じではないでしょうか?
私も前作から追っかけて読んでおりますが、ものづくりをする人間と、ものを売る人間との葛藤がまさに会社組織の葛藤そのものだなぁと感心して読ませてもらっております。仕事に情熱が傾けられなくなっている方に是非とも読んで頂きたい一冊です。元気が出ますよ!
■あなたにぴったりの一冊を『図書館の主』
●あらすじ…
年末の夜、忘年会で悪酔いした宮本は、公園の片隅に、「タチアオイ児童図書館」という図書館が建っていることに気がつく。「こんな時間までやってんのか…」と立ち寄った彼は、そこで口の悪い司書、御子柴に出会う。成り行きで御子柴から本を片付けるよう言われた宮本は、その本の中の1冊「新美南吉童話集」に目をとめる。その中の一編「うた時計」で語られる物語は、「親を越えてみせる」と家を飛び出た宮本の境遇にあまりにも重なっていた。自分の境遇を察してこの本をすすめたのか、と尋ねる宮本に御子柴が語る。
「お前が本を選ぶんじゃない 本がお前を選んだんだ」―― (Wikiより)
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公園の片隅にある小さな児童向け図書館には気難しい司書の「御子柴」がいる。様々な悩みや問題を抱えた人がたまたま図書館に立ち寄った際に御子柴は驚くほどぴったりな児童書をお勧めしてくれる。御子柴は問題を解決しないし、その人の悩みに口出ししたりも一切しない冷血漢だが、彼の差し出す本の中には様々な人生の機微がちりばめられており、天啓を受けたようにその本を読んだ人たちは悩みから解放されてゆくお話。
これだけ聞くとちょっと都合の良すぎるお話なのですが、お話が進むにつれ違和感も拭えてくると思います。大人になって児童書を子供に聞かせる以外で読む事はあまりないと思います。あまり知られておりませんが、児童文学は子供が読む為にできるだけ簡単な、そして少ない語彙で物語を伝えなければならない為、とても書き手に技術が求められます。そう言った目線で読んでみると、児童書も奥深いものなのだなとあたらめて知ることとなるでしょう。
ここでオススメされている本は、ディケンズや宮沢賢治、アンデルセンやグリム兄弟など皆さんが一度は手に取った事のある物語ばかり。ただ、仔細は忘れてしまっている本がほとんどだと思います。いざ、 その話を思い出そうとしても覚えていないんですね。改めて内容を見返してみると児童書というのは子供だけに向けられたものではなく、それを読聞かせる親世代にも凄く深い感銘を与えるものだという事を知ることができると思います。
特にオスカーワイルドの『幸福な王子』は子供の頃どなたも読んだことがあるかと思いますが、今読んで見ると『こんな切ない話だったのか!』と涙する方もおられるのでは無いかと思います。本好きの方にもオススメのマンガです。
ここまで3作品ご紹介しましたが、どれもとても面白い作品です。本屋さんで見かけたら、たかがマンガ、絵本とお思いになる方もいらっしゃるかもしれませんが、一度手に取ってみて下さい。新たな感情が生まれるかもしれませんよ。