2015年もあっという間に1月の半ばですね。時日の経つのは早いもので、明けましておめでとうと言っていたのがまるで昨日のように思われます。
昨年末にインフルエンザに罹患してしまい、文字通り寝正月となってしまい家族にも迷惑かけ通しの幕開けとなったのですが、寝ている間でも唯一できることがテレビを見ることだったんですね。どこかに出かけるのも無理、新年会なんてもってのほかの体調だった訳ですが、ただぼーっとテレビを見ることはできたのです。
そんなさなか、アメリカであまちゃん的人気番組として名を轟かせていた『Breaking Bad』がシーズン1から5の最終話まで62話一挙放送をしていたんです。もちろん体調不良なのでリアルタイムでは追っかけられませんでしたが、全部録画し少しづつ咳で眠れない夜などに見てゆきました。
まあ、おもしろいことおもしろいこと。アメリカの底辺、暗部を見せつけられるようなゆるーい展開で、文字通り『Breaking Bad』(道を踏み外す)様子が、描かれています。
あとで知ったことなのですが、2014年のエミー賞は各部門総なめでアメリカのドラマ史上最も賞を取ったドラマとなったそうです。あまロスという言葉が流行りましたが、まさに今はBreaking Badロスになっている状態。続きがあるなら見てみたいと全米が思っているドラマなんです。
■主人公は冴えない化学教師
この物語の主人公ウォルターは冴えない化学の教師。学校でもろくに授業を聴いてもらえず、特に趣味もない50歳になったばかりの、ただただまじめな先生。年下の妻がおり、家には妻の妹夫妻がいつも押し掛けてきています。義理の弟は麻薬捜査官をしており生真面目なウォルターをバカまじめだといつもからかっています。
そんな中、妻に妊娠が発覚、50過ぎてからの第2子誕生でタダでさえ裕福とは言えない家庭がさらに困窮の様相を呈してきます。家には脳性麻痺の長男がいて、歩行に障害があります。ウォルターは教師だけの給料では足りず、洗車場で車を洗うアルバイトを行い家計を助けていますが、家計は火の車。
毎日忙しくしているウォルターは、ついに洗車場で倒れてしまいます。救急車で運ばれた病院で思いもよらない事実を告げられます。
『肺ガンで余命2年』
失意の中、家族に病気のことは打ち明けられずウォルターは毎日の生活を続けますが、死に直面したことによって『残されてゆく家族に、少しでもお金を残さねば』という強迫観念にも似た気持ちが芽生えてきます。
そこで思いついたのが化学の知識を活かした『麻薬の製造』です。麻薬を作って金儲けという突拍子もない発想ですが、ウォルターは大量の風邪薬からメタンフェタミン(通称メス)を作り出します。それも巷に出回っているメスより何倍も純度が高い“極上”のメス。クリスタルと言われる純白のメスはあっという間に裏社会で話題になります。
禁断の一歩を踏み出してしまったウォルターは、はたしてどうなってしまうのか…
■落ちこぼれの相棒、ジャンキーのジェシー
このお話には重要な役割の人物がもう一人います。ウォルターの高校の教え子、ジェシー・ピンクマンです。彼は偶然ウォルターが社会見学にきていた麻薬のガサ入れ現場で二人は再会します。ガサ入れの最中裏口から無事逃げおおせたジェシーですがウォルターには見られていました。学校の卒業名簿を見てウォルターはジェシーの家に押し掛けて行きます。
『一緒にメスビジネスをやらないか?』
高校時代のバカまじめな先生が押し掛けてきて自首を薦めるのかと思ったらまさかの共謀のお誘いです。ウォルターは作る方はできるが、裏社会に精通しているジェシーに販売の方をお願いしにきたのです。ジェシーはそんなバカな話のれるかと断りますが、もし協力しないならDEA(麻薬取締局)に通報するぞと脅します。この時点で、先生大分まっとうな人生から足を踏み外してしまってますよね(笑)
仕方なくジェシーは協力し、クリスタルメスは大当たりしますが、そんな素人商売をやっていたら『ヤ』のつく人たちがほっておく訳がありません。すぐにギャングに目を付けられて殺されそうになります。やられる前にやれとばかりに先生はヤクの元締めを殺してしまいます。遂に殺人までおかしてしまうんですね。
ここまで起きてしまった事件などはすべて何か一つ歯車が狂って偶然起こってしまったもので、計画性がある物ではないんです。人が足を踏み外すときってそんなもんなのかなと思わされるエピソードばかりです。何かを取り繕うためついた小さな嘘がだんだん大きなトラブルになり、家族、ひいてはアルバカーキという田舎町を巻き込んでゆきます。
■人を変えてしまうのは何か
ネタバレになってしまうので、多くは書きませんがウォルターは様々なトラブルに卷き揉まれながらもメスビジネスをどんどん拡大してゆきます。ただそこはもともと9時〜5時できっちり帰ってくるようなドがつくようなまじめな夫でしたから、奥さんが疑いの目を持ってきます。
基本的には夫婦のドタバタコメディと言っても過言ではないくらい奥さんの前ではウォルターは困らされます。嘘を突き通して裏社会から家族を守ろうとする彼ですが、そんな事情は家族には伝わりません。事情を知ってか知らずか、奥さんは浮気を疑ったり、家ではすねてみたりと子供じみた態度でウォルターを毎日の様に困らせます。裏社会ではハイゼンベルグとして泣く子も黙るメスビジネスの帝王が家では奥さんの顔色を伺うそんな日々なんです。このギャップがまさにおしどり夫婦を演じなくてはいけないアメリカ社会のひずみとでも言いましょうか、ドラマにアクセントを加えています。
ウォルターはお金を残すという意味では数十億円?もしくは数百億円と言う莫大な金額を儲けました。いつでもやめる機会があったにもかかわらず、ウォルターはメスづくりをやめません。ジャンキーのジェシーですら何度も手をひこうとしていたにも関わらずです。
田舎の平凡な化学教師が、メスビジネスの帝王になって、当初の『家族にお金を残す』という目的からウォルターは随分と外れてしまいました。でもここに『Breaking Bad』(道を踏み外す)という題名のキモがあると思います。
これは私の個人的な感想ですがウォルターは随分と長い間他人から能力や人柄などを求められずに過ごしてきました。メスビジネスという悪行ですが、ウォルターは居場所を見つけてしまった。自分が求められる才能を遺憾なく発揮できて、評価される世界に身を置いてしまったことで、お金は単なる記号でしかなく無くなってしまったのだと。シーズンが進むにつれ心の変化とともに外見の変化も現れ、温和だったウォルターから、悪の帝王ハイゼンベルグに表情も仕草も変わってゆきます。家族を守りたいという意思から、お金への執着さらに自分の能力の誇示へと心境が変化する様はまさに『Breaking Bad』(道を踏み外す)様子そのものです。
主役のブライアン・クランストンの見事な演技もさることながら周りを取り巻く厄介な隣人達の演技も秀逸です。お時間ある時に是非ご覧になって見てはいかがでしょうか?
本編は終ってしまいましたが、劇中に登場する悪徳弁護士ソウルのスピンオフが2月から全米で放送されます。ベターコールソウル、こちらも楽しみですね!