先日引退を発表した車椅子テニスのレジェンド国枝慎吾選手には有名なエピソードがある。2007年にフェデラーが、日本人記者から「なぜ日本のテニス界から世界的な選手が出ないのか」という質問に対して「日本には国枝がいるじゃないか」と返したというエピソード。これは国枝選手のみならず、車椅子テニス界にとってもとても印象的な言葉だと思う。なぜなら常々国枝選手が言ってきたことの一つに車椅子テニスを障害者スポーツという福祉の一環のような枠組みではなく、純粋にスポーツとして見てもらいたいという言葉がありました。それまでどんなにグランドスラムで優勝してもそれまでは新聞やテレビの扱いは小さな扱いでしかありませんでした。ただフェデラーはすでに国枝慎吾を自分と同じように見ていたし、国枝慎吾はこの言葉で日本中にトップアスリートとしてさらに認知された瞬間だったと思います。
車椅子テニスにおいて前人未到のグランドスラム50勝という偉業の成し遂げたのは、このスポーツにおいてまさにゲームチェンジャーというべきプレイスタイルを確立したから。それまでの車椅子テニスといえばルール上2バウンドまでが許される競技なので、後方でバウンドを待ちラリー戦を長く続けるものが多かったのですが、国枝選手は圧倒的チェアワークを駆使して1バウンドで返球。これを多用しさらに1バウンド返球は前で返球できるため角度をつけやすく、ときにはボレーにも出るという超攻撃的なスタイルを確立しました。
またバックハンドは通常のテニスでも力が入りにくいショットなので、両手打ちが多いのですが車椅子テニスではウィール操作も必要なため、片手で力が入りやすいスライスでの返球が主でした。それが国枝選手はバックのトップスピンを多用し、跳ねるボールでコートの外に追い出し、前に出て1バウンド返球で相手の時間を奪っていくスタイルで勝利を重ねます。
主な成績は年間世界王者10回。シングルスでは107連勝を記録するなど、歴代で最も長く世界ランキング1位を維持し続けました。
特にグランドスラムではシングルス(優勝回数 28(全豪11、全仏8、全英1、全米8))
全豪 優勝(2007、2008、2009、2010、2011、2013、2014、2015、2018、2020、2022)
全仏 優勝(2007、2008、2009、2010、2014、2015、2018、2022)
全英 優勝(2022)
全米 優勝(2007、2009、2010、2011、2014、2015、2020、2021)
ダブルス(優勝回数 22(全豪8、全仏8、全英4、全米2))
全豪 優勝(2007、2008、2009、2010、2011、2013、2014、2015)
全仏 優勝(2008、2010、2011、2012、2013、2015、2016、2019)
全英 優勝(2006、2013、2014、2022)
全米 優勝(2007、2014)
さらに4つのパラリンピック金メダル2つの銅メダルホルダーでもあります。唯一残されていたウインブルドンを制した国枝選手は全てやりきったという気持ちになったそうでもう思い残すことは何もない完全燃焼ということですね。ラケットに刻まれた「オレは最強だ!」という言葉通り、世界ランキング1位のまま引退。国民栄誉賞も検討されておりますが、日本の宝としてこれからもテニス界に大きな力になってくれると思います。今後はテニスの解説なども楽しみですし、これからのさらなるご活躍を楽しみにしています。長い間お疲れ様でした!