続きましては、発酵のチカラを使った地域色豊かな漬け物の数々を、いくつかのカテゴリーに分けて紹介してみましょう。
まずは
"北国系"。その特色は海の幸をうまく利用していること。北海道の「松前漬け」は、細切りしたスルメと昆布が主役。お酒や醤油、みりんを合わせた調味汁に漬けこみます。数の子を入れるケースも多いですね。
ちょっと変わっているのが、岩手の「金婚漬け」。大根や人参などの野菜を昆布で巻き、真ん中をくりぬいた瓜に詰め込みます。それを味噌で漬けたものです。古漬けするほど旨みが出ることから金婚式にちなんだとも、この地域で獲れるナマコ(方言だとキンコ)に形が似ているからとも言われています。
"青菜系"は、いちばんポピュラーといえそうなカテゴリー。日本三大漬物と呼ばれる福岡の「高菜漬け」、広島の「広島菜漬け」、長野の「野沢菜漬け」は、いずれも"青菜系"です。
近年、長野県は長寿県としてクローズアップされていますが、その一因かもしれないと思われているのが野沢菜。
もちろん、塩分のとりすぎはよくないため、野沢菜に限らず様々なお漬け物が塩分控えめで作られています。加えて、野沢菜は独特の酸っぱさが醸される乳酸発酵食品。世界的に長寿地方として知られるロシア・コーカサス地方の人びとも、乳酸発酵したヨーグルト好むこともあり、長寿と発酵食品の関連について研究が進められているところです。
次に紹介したいのが
"有効活用系"。これは、調味料やお酒を造る過程で生じたものを、先人たちがなんとか有効活用できないだろうかと考えた末に生まれたもの、と定義づけましょう。となれば、栃木県日光発祥の「たまり漬け」。昔から味噌蔵や醤油蔵が多かったこの地では、味噌や醤油を造る際に生じる上澄み(たまり液)を活用しようと考え、日光高原で栽培されていた野菜を漬けてみたことがはじまりです。ラッキョウやゴボウ、ナス、キュウリなどを漬けこみます。
そして皆さんご存じ、奈良の「奈良漬け」。こちらは日本酒などを造る際、もろみを絞った際に残る「酒粕」を利用したもので、奈良時代にはすでに原型があったとされています。一般的に漬け込まれる野菜は白うりが有名ですね。ベッコウ色になる主成分「メラノイジン」は抗酸化作用やビタミン吸収をサポートする働きがあるといわれています。さらには酒粕の酸味が口の中をリセットしてくれるため、脂っこい食事の脇役としてもピッタリ。うなぎのかば焼きの付け合わせにもよく出てきますよね。ぜひ土用の丑の日に食べたいところです。
そして
"京都系"。京都三大漬物は、柴漬け、千枚漬け、そして「すぐき(酸茎)」です。柴漬けは京都・大原の赤紫蘇、千枚漬けは京野菜の聖護院かぶ、そして「すぐき」は京都の伝統野菜「すぐき菜」と、いずれもこの地ならはの食材を用いたお漬け物ですね。
このうち、千枚漬けはもともと乳酸発酵がなされた食品でしたが、現在は酢に漬け込むことが一般的なようです。ラッキョウもそうですが、いわゆる酢漬けにすると、無発酵食品となります。酢に含まれる酢酸菌の殺菌作用が強いため、梅干し同様に微生物が働かないんですね。しかしながら、酢そのものが発酵食品です。発酵の恩恵を受けていることには変わりありませんね。