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特集記事【2021年8/20日号】

季節の変わり目は、考え方を変えると「2つの季節」を楽しめる時期でもあります。夕暮れ時にひぐらしがカナカナと鳴く晩夏から、虫の音が耳に届き始める初秋へと移り変わる時期は、夏の鮮烈さとはひと味違った、落ち着いた風情が漂います。

そこで今月は、晩夏と初秋の風情を楽しむ特集です。この時期には、日本に古くから伝わる「重陽の節句」「中秋の名月」という風流な行事があります。さらに「秋の七草」も、春の七草と違って"眺めて楽しむ"風流な習わしです。

これらの行事や習わしと絡め、この時期に食卓に並べたいグルメもご紹介。暮らしに季節感を取り入れて、ステイホームな時期を少しでも心地よく過ごしてもらえると幸いです!
来たる9月9日は「重陽の節句」です。節句と言えば1月7日の「人日の節句」、3月3日の「上巳の節句(桃の節句)」、5月5日の「端午の節句」、7月7日の「七夕の節句」とあり、9月9日の「重陽の節句」を加えて「五節句」となります。

1月7日以外は、いずれも奇数のゾロ目。これはルーツである中国において、奇数は縁起が良い"陽の日"とみなされていたことが由来です。最も大きな数字となる「9(陽の日)」がゾロ目で重なることから「重陽」となりました。

気になるのは、その日の習わしです。1月7日は春の七草、3月3日は雛祭り、5月5日は柏餅に菖蒲湯、7月7日は七夕飾りといったように、それぞれ習わしが浸透していますが、9月9日は何をすればいいの?と感じる方もいらっしゃると思います。

9月9日の習わし、そのキーワードは菊です。古来より中国では、菊は優れた薬効を備えた植物という位置づけです。菊にまつわる長寿伝説などもあり、日本でも、この日に菊を飾って愛でたり、菊を漬け込んだ酒を飲み、長寿祈願や邪気払いをしていました。また、前日の夜、外に咲いている菊に綿を被せておく「被せ綿」という風習もあります。9日の朝、朝露によって菊の香りがしみ込んだ綿を手に取り、それで身体を拭うことで邪気を払う習わしです。

今の時代に「被せ綿」をするのはちょっと敷居が高そうですが、重陽の頃になると、スーパーの棚などに食用菊が並ぶこともあります。もし手に入るなら、菊の花びらを日本酒に浮かべる菊酒を、ぜひ楽しんでみてはいかがでしょう。料理にするなら、ほうれんそうや小松菜などの葉物と和えた、おひたしや酢の物がシンプルでおすすめ。太巻きやちらし寿司の具にすると、彩り豊かで食卓が華やかになります。また、山形県には「晩菊」という漬物があります。晩秋に咲く菊と数種類の野菜を漬け込んだもので、そのままご飯のお供として食べてもよいですが、お茶漬けにすると絶品です。

他にも、重陽の節句には収穫の祝いとして栗を食べたり、竜脳菊という種をお風呂に浮かべるといった習わしもあります。江戸時代には、3月3日以降、しまい込んでいたひな人形をこの日に出して飾り、長寿を祈願する「後(のち)の雛」という文化も生まれました。防虫剤がない時代ゆえ、人形を虫干しして長持ちさせる意味も込められていたそうです。

他の節句に比べて馴染みが薄い重陽ですが、ステイホームで季節を感じることが少ない今だからこそ、いくつかの習わしを試してみてはいかがですか?
春の七草よりも知名度が下がりますが、秋にも七草があります。春の七草は、お粥にするなどして、お正月で疲れた胃腸を整える食事としての役割がありました。昔は田んぼのあぜ道などで七草を手軽に調達できていたため、理に叶った習わしだといえます。

一方で、秋の七草は"愛でる"もの。古くから、眺めて楽しむ習わしでした。

その7つは、萩、尾花(ススキ)、葛(くず)の花、撫子(なでしこ)、女郎花(おみなえし)、藤袴(ふじばかま)、朝顔。

このうち朝顔は、今でいうキキョウのことだというのが定説です。

いずれの花も昔は身近に咲いていましたが、今はススキ以外は、野に自生している姿はなかなかお目にかかれないのが現実です。葛の花は現在だと、葛湯や葛切りなどの食べ物や、根を使った生薬「葛根湯」のほうが有名ですよね。右の画像は女郎花。"秋の菜の花"といえるような鮮やかな黄色い花がとても印象的で、。日当たりのよい草原に生えています。風変りな名前の由来は諸説あり、はるか昔、男性優位の時代だった頃に、女性は黄色い粟のご飯、男性は白いもち米を食していたためともいわれています。実際に、オミナエシ科の白い「男郎花(おとこえし)」という花も存在します。

撫子やキキョウは、花屋で買う切り花や、ガーデニング用として現在もよくみかけます。逆に秋の七草の中で、最もなじみが薄いのは、藤袴でしょう。遠く万葉の時代から親しまれ、「源氏物語」にも登場しています。乾燥させることで良い香りを放つため、平安貴族は髪や衣類につけたり、入浴時にお風呂に入れたりして愛用していました。

しかし、河川の護岸工事などにより自生種は減少し、準絶滅危惧種に指定されていますが、植物園などでは見ることができます。ちなみに、画像に写っている蝶はアサギマダラという種です。この蝶は実に珍しく、渡り鳥ならぬ"渡り蝶"。海を越え、1000km以上も旅をします。人間だけでなく、蝶も藤袴を"良い香り"と感じているわけですね。

こうした秋の七草は、東京都の小石川植物園や殿ヶ谷戸庭園、向島百花園、埼玉県の国営武蔵丘陵森林公園などで鑑賞することができます。素朴で可憐な秋の花に癒されてみませんか?
都会であっても、お月様は健在!風流なお月見は、初秋を代表する習わしです。 中秋の名月とは、旧暦8月15日の夜に見える月のこと。お月見文化もまた、平安時代に中国から伝わったといわれています。今年の中秋の名月は9月21日(火)で、満月です。

"満月です"とわざわざ記したのは、年によって中秋の名月=満月とは限らないためです。月は地球の周りを楕円形に回っている関係で、年によってまだ満ちていない(欠けている)月になることがあります。

それでも十分美しいのは、秋になると大陸で発生した高気圧が乾燥した空気を運び、クリアに見通すことができるからです。

さて、お月見といえばお供え物。先ほど紹介した秋の七草から、ススキの登場です。ススキは背が高く、神様が宿る神聖なものと捉えられていると同時に、その形が稲穂に似ていますよね。しかし稲穂が実る時期とは少々ずれるため、その代わりとしてススキの出番になったといわれています。さらに、お花屋さんにススキ以外の七草、たとえば女郎花や萩の花が並んでいたら、それらも飾ると華やぎますよ。

そして、外せないのが月見団子。丸い団子で満月を表現しているといわれています。もし自家製するとしたら、お湯に上新粉を溶いて混ぜ、丸めた状態で蒸しあげるシンプルな調理法で構いません。お供えする段階では味がついておらず、お月見が終わってさあ食べようとなったときに、平らにして醤油を塗って焼いたりするのがよいでしょう。

また、中秋の名月は、秋の収穫を祝う意味も合わさって"芋名月(いもめいげつ)"と呼ばれることもあります。

ここでいう芋とは、里芋です。里芋をそのまま水炊きして、月見団子と並べて月にお供えしていました。皮を包丁で剥かずにそのまま茹でる、もしくは蒸して、食べる時に皮をツルリと向いて、塩を振って食べる…いわゆる「きぬかつぎ」という料理です。

シンプルで素朴ですがとても美味しく、お酒のおつまみとしてもピッタリです。

ちなみに、中秋の名月から約1か月後の満月の2日前、いわゆる「十三夜」を「栗名月(くりめいげつ)」「豆名月(まめめいげつ)」と呼ぶ地方もあり、その日は食べ頃を迎えた栗や大豆料理が食卓に並びます。今年の栗名月は10月18日(月)です。

自宅でできる季節感の演出として、ぜひ今年はお月見を取り入れてみませんか?
今後の特集の参考にさせていただきます。
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