続いては信州・長野の温泉郷にある2つのお宿をご紹介しましょう。まずは信州最古の歴史を持ち、多くの自社仏閣があることで"信州の鎌倉"とも称される別所温泉です。

その界隈は文化財の宝庫。国の重要文化財に指定されている石造多宝塔が見事な「常楽寺」や、全国で一つしかない木造八角三重塔が国宝に指定された「安楽寺」など、温泉街に泊まれば歩いて巡れる距離に貴重な建築がいくつもあります。
旅館「花屋」もそのひとつ。大正6年の創業で、6,500坪の広大な敷地に木造建築が点在し、それぞれが渡り廊下で結ばれています。
部屋は間取りがすべて異なり、ほぼ全館が登録有形文化財に選定されているところが大きな特徴です。建築を宮大工が手掛けているのも、昔から寺社仏閣が多いこの地ならでは。柱に千曲川やかたつむり、竹など身近なモチーフが彫り込まれ、現在も修繕に備えて大工さんが常駐している念の入りようです。
ところどころに洋風のエッセンスも加えられており、レトロ調のランプや置時計、シャンデリアなど大正浪漫の風情が漂います。ステンドグラスが施されている大理石風呂も情緒たっぷりです。

続いては、千曲川が流れる戸倉上山田温泉の「笹屋ホテル」。
こちらは明治36年の創業で、善光寺や軽井沢の中間に位置した立地から多くの人々に愛されてきました。すべての部屋に源泉100%掛け流しのお風呂がある点も特徴的です。 登録有形文化財に指定されているのは、同館の敷地内にある数寄屋造りの8室「豊年虫」。
旧帝国ホテルを設計した世界的建築家、フランク・ロイド・ライトに師事した最初の日本人、遠藤新による設計です。日本らしい繊細かつシンプルな美が凝縮した空間は、池を配した庭や水路と見事に調和。心地よい安らぎを与えてくれます。また、2階にあるライブラリーにはかつて同館を訪れた文人墨客の画文が飾られており、窓から見られる奥の庭園など眺望も見事です。心癒されるひと時を、ぜひお過ごしください。