どことなくユーモラスで、観る者を温かい気持ちにさせてくれる作品の数々。明治から昭和にかけて活動した画家・熊谷守一(くまがい・もりかず)の作品を集めた美術館が東京・豊島区にあります。
1985年、熊谷守一が45年間住み続けた旧宅跡地に私設美術館としてオープンし、後に豊島区が作品150点あまりの寄贈を受けて2007年から豊島区立となりました。
絵を褒められようとも、有名になろうとも思わない。そんな心構えで絵を描き続けてきた彼は、年を重ねるにつれてだんだんと画風がシンプルになっていきました。
もともと身近な動物や花など命あるものを好んで描いていましたが、晩年はもっぱら自宅の庭で過ごすことを好み、そこに生きる昆虫や鳥などに興味を抱いていたといいます。熊谷守一にとって、自宅の庭が無限の小宇宙だったといえるでしょう。
それら生物をモチーフにした晩年の作品は、シンプルな線とシンプルな色づかいで構成され、一見すると子どもの描いた絵画のよう。晩年は主にカンバスではなく、小さな板に描いていました。
油絵としては最後となった作品「アゲ羽蝶」からは、生き物の力強さを感じ取ることができます。美術館の外壁にあしらわれた、蟻を描いた作品も独特です。
1階の第一展示室には「アゲ羽蝶」や「自画像」「白猫」など油絵をメインに、掛軸やブロンズ、絵付けした器など30点余が展示されているほか、生前に氏が使っていたイーゼルや、趣味のチェロなども飾られています。
2階の第二展示室には、筆と色墨で和紙に描いた墨絵の「蟻」「がま蛙」をはじめ、書「寂」「五風十雨」、オイルパステル画などを展示。
墨絵や書について詳しくなくても、ダイレクトに心に響いてくるような作品ばかりです。
住宅街の一画に、ひっそりとたたずむ美術館。春の散策の途中でぜひとも立ち寄りたい美術館のひとつです。